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原題 Nomad Century
著者 Gaia Vince
ページ数 288
分野 社会、政治、経済、環境
出版社 Penguin (UK), Flatiron (US)
出版日 2022/08/25
ISBN 978-1250821614
本文   今後50年間に気温はますます上昇し、猛烈な湿度と相まって地球上の多くの地域は、死の土地となってしまうだろう。そこに住む35億の民はかつて耕地だった土地を捨て、新しい住処を探すことになるだろう。その動きはすでに始まっている。干ばつに襲われた南米、アフリカ、アジアの地域から逃げ出す人々の流れをわれわれは目にしている。人類が種の危機に瀕していることに疑いはない。しかし解決策はある。かつてないほど周到に準備された移動計画こそ、今必要とされているのだ。

 気温が1度上がるごとに、およそ10億の人々が長年住み慣れた土地から追いやられる。そんな研究結果もあるくらいだ。熱帯地方から北方へと人は流れていく。今まで緯度27度線周辺が心地よい気候と肥沃な土地に恵まれているとされていたが、そのラインは極地方面に1日115センチずつ動いているという。一方、北半球では高齢化と少子化の影響で逆三角形の人口構成になってしまっている。多くの国が労働人口の減少を、他国からの移民により何とか賄っている。しかしこれは移住を余儀なくされた移民にとっては新しい生活の場所を保証され、新しい生活をスタートさせるチャンスである。移住者により世界のGDPの約10%、6,7兆ドルが生み出されているという研究結果もある。さらに、国境がなければその数字はさらに100~150%アップ、1年に90兆ドル増加するという。

 そもそも人間の心の中にはノマドの心が潜んでいる。何十万年も前に放浪の生活を送ることによって適応能力が身についた。今でも移動という行為は人間にとってごく当たり前の行為である。今後大切なのは極度の帰属意識や排外意識から脱却し、「地球の住人である」というマインドセットへ転換することだ。筆者はデータや自ら取材した結果をもとに、すでに起きている惨劇にわれわれの目を開かせ、そこから生まれる移住者の実態を報告する。さらにそうした事態がもたらす弊害だけでなく、むしろ恩恵や利点に目を向けこの危機の時代を乗り越える手がかりにしようとしている。そして、今世紀末までに二酸化炭素が削減され、新技術が開発されることによって、再び元の土地に人が戻れることを祈るのだった。