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原題 Supersonic
著者 Simon Halfon
ページ数 400
分野 音楽、伝記
出版社 Headline
出版日 2021/10/14
ISBN 978-1472285447
本文  『オアシス(Oasis)』は1991年に結成されたイギリスのロックバンドである。メイン・ソングライターの兄、ノエル・ギャラガーとボーカルの弟、リアム・ギャラガー兄弟を中心に、イギリスのみならず世界のファンを虜にし、トータルセールスは7千万枚以上、本書の掉尾を飾るロンドン郊外ネブワースのコンサートでは2日間で25万人の聴衆を集めた。その大イベントの20周年を迎え、ドキュメンタリー映画製作の話が持ち上がった。2人の兄弟からはもちろん、メンバー、家族、関係者から膨大なインタビューが集まり、それをもとにして、初期のオアシスの足跡をまとめた映画 『Supersonic』が完成し好評を博した。

 本書はその際に収集されたインタビュー(兄弟2人分だけでも合わせて30時間近くある)をすべて文字に落とし込んだものである。当然映画には採用されなかったものがほとんどである。日の目を見なかったものも含めて、すべてに目を通して見ることも、『オアシス』の全体像を語るうえで意味のないことではないだろう、と筆者は考えたのだ。

 物静かで内気なノエル、元気で人に注目されるのが好きなリアム、好対照な兄弟だが、音楽の世界に入る道筋もそれぞれ異なっていた。たまたま家にあったギターをつま弾いていたノエルは、やがて地元クラブの人気グループ、『インスパイラル・カーペッツ』のローディー(裏方)になり、ツアーにもついて回るようになる。一方のリアムはからまれた女の子を助けた際に相手から頭部をハンマーで殴られた瞬間、ふと音楽に目覚めたという。地元のバンドを自分を売り込み、そのバンド名まで『オアシス』に変えてしまう。ノエルをソングライターとして迎え、いよいよバンドは荒波の海に乗り出していく。

 生い立ちから始まって、学校生活、アルバイト、音楽活動のみならず私生活についてまであけすけに語る兄弟はとてもリラックスしているように見える。それほど2人の(そしてそれ以外の話者も)話は赤裸々だ。若気の至りと笑って済ませてよいのかわからないようなエピソードには事欠かない。逆に音楽とバンドに対する真摯な気持ちもそこここに現れている。日本ツアーとそれに続くアメリカツアーの話もまるで対照的で大変興味深い。豊富な写真とともに1990年代の音楽シーンを記録した、優れたインタビュー集である。