ブックレビュー ブックレビュー

原題 How We Grow Through What We Go Through
著者 Christopher Willard PsyD
ページ数 176
分野 自己啓発、心理学、家庭医学
出版社 Sounds True
出版日 2022/11/29
ISBN 978-1683648901
本文 人生はトラウマ的な出来事に満ちている。トラウマに対する反応と回復のあり方は十人十色で、回復までの道のりは平坦ではないが、幸いなことに人間は誰でも、つらい経験から成長する力を持っている。本書は、こうした「トラウマ後の成長(PTG)」に向けて、トラウマに対する反応を調整し心身のレジリエンス(しなやかな回復力)を高める方法を指南する本である。主に子供向けのマインドフルネスの本で定評のある著者が、本書では一般向けに、自身の母親を看取った経験や、心理士・マインドフルネス講師として活動する中で出会った人々のエピソードを交え、悩める人間のひとりとして親しみを込めて読者に語りかけている。

トラウマを認識したとき脳は極端な反応を示すが、敵に手を差し伸べるように友好的にトラウマと向き合えば、やがて心も身体も落ち着き、人間関係もよくなっていくという。そのためには、1. 呼吸、散歩などのエクササイズ、食事、睡眠で身体のレジリエンスを高める、2. 自分の感覚・思考・感情を意識すること、感謝の気持ちを表わすことで頭(マインド)のレジリエンスを高める、3. 人とのつながり、セルフコンパッション(自分を慈しむこと)、信頼を築くことで心(ハート)のレジリエンスを高めることが有効であるとして、その方法を具体的に提案している。

随所で神経科学や心理学の研究・調査結果を引き合いに出し、経験的に良さそうだと思われていることに確かに科学的裏付けがあることを示している。興味を持ったところから気軽に始められるシンプルで実践的なガイドとなっている。

パンデミックの不安や社会的分断の深刻化によりストレスが高まっている今、心を落ち着かせ、つらい時期を耐え抜くだけのしなやかな強さが欲しいと考える人々に本書が役立つことだろう。ソーシャルディスタンス確保のため屋外での散歩を習慣にするようになった人も多いだろうが、本書で提案されている「マインドフルネス散歩」を試してみるのもいいかもしれない。