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原題 Chikkamma Tours (Pvt.) Ltd: A Bibliomystery
著者 Unmana (Author)
ページ数 326
分野 フィクション/推理小説
出版社 Tranquebar Press
出版日 2024/09/16
ISBN 978-9360453183
本文 ベンガルールにある小さな旅行会社チッカマ・ツアーズの社員であるクィア女性の二リマ・デカ。気難しく皮肉屋、見た目もぱっとしない二リマは家族とも疎遠状態で、これまでの人生は決して楽なものではなかった。二リマは読書を心の拠り所とし、書店はあらゆる苦難からの救いの場であった。そんな二リマが会社の上階にある本屋の店主が殺害された現場に遭遇する。遺体を発見した当初は動揺したものの、犯罪小説好きの二リマは目の前にある現実の殺人ミステリーに惹かれ、アマチュア探偵として事件を捜査することでこれまでの人生が一変するのではないかと考える。

だが、当然一人では手に負えない。そこで、同僚で仕事上のライバルであるプールナ、上司のシュウィザを巻き込み、本業を気にしながらも、3人で書店の従業員への聞き込みや容疑者へのスパイ活動などを行って事件解決に挑んでいく。しかし、現実の殺人事件の捜査は小説の中の捜査よりもはるかに厄介で、華やかさもない。容赦なく降り続く雨、地元ギャングとの衝突、次々と現れる怪しげな人物、嘘、無罪の男を告発しようと躍起になっている警察。難題に直面しなからも二リマ、シュウィザ、プールナは殺害された店主を取り巻く複雑な人間関係を解きほぐし、事件の真相へと迫っていく。

物語はミステリーの要素のみならず、事件担当の警部が二リマの元カノと交際中であったり、上司のシュウィザを巻き込んだ裏には事件の捜査を機に親しくなりたいという二リマの魂胆があったり、二リマの恋の行方も見どころの一つになっている。セクシャリティや人間関係の力学といったテーマも併せ持つ物語は、クィア女性を弱く経験の浅い若者から、自分自身の強さを知る人物へと変貌を遂げさせ、疎外されていると感じているアイデンティティに寄り添うように正当性を与えていることから、インドの若いLGBTQ+の読者から多くの支持を受けて着々と読者層を広げており、出版されて1年も満たないが早くも続編への期待が高まっている。私たちの周りにある多様な人生を知ることができ、さらには、ビリヤニを食べたり、スクーターで容疑者を追跡したり、雨期のベンガルールの都市生活も垣間見ることができる異色かつ新鮮なビブリオミステリーである。