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原題 Forever President
著者 Michael J. Seth
ページ数 288
分野 歴史(伝記)、国際関係、政治
出版社 Reaktion Books
出版日 2025/09/01
ISBN 978-1836391043
本文 本書は、比類なき北朝鮮のカリスマ的独裁者であった金日成国家主席の、満州へ亡命した少年時代から絶対的な国家主席となってその地位を維持するまでの、功績と失敗をまとめた一冊である。

現代において、拉致事件や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射など、度々世界のニュースに取り上げられては世界中を戦々恐々とさせている北朝鮮。しかし、一般的に開示されている情報はあまりにも乏しく、この国の歴史や実情など何もかもが、他のどの国よりも不透明だ。それは、金日成主席が、歴史的にも長期にわたり国家を統治した人物であったにも関わらず、ほかに類を見ない閉鎖的で秘密主義的な国を形成したからである。そしてまた、彼自身がとても近寄りがたい、謎めいた指導者となり、その後継を一族の金正日、金正恩が担ったことで、未だに北朝鮮もそのリーダーもベールに包まれたままなのである。

朝鮮半島の歴史に関して数々の書籍を執筆しており、北朝鮮情勢にも詳しい著者は、入手可能なあらゆる資料から得た金日成主席の生涯に関する詳細な情報を基に、北朝鮮という国とそのリーダーについて論じている。様々な大国に翻弄された分断国家の北朝鮮と韓国が、ともに祖国の統一を目指していたにも関わらず、その異なる政治的・社会的システムによって、いかにして対照的な社会へと発展していったのか。また、北朝鮮と韓国が依存していた大国、ソ連や中国、そしてアメリカが、この分断国家とそのリーダーたちにどのような影響を与えたのか。著者は本書で、この二国の発展と衰退の歴史を分析し、明快に述べている。また、エゴイズムをもって国の発展および半島統一を追求し続けた金日成主席の思考や行動によって築かれた北朝鮮の歴史を考察し、読者に分かりやすく解説している。

本書を通して、読者は、北朝鮮のベールに隠されていた部分に触れ、金日成主席の生涯を知り、現在の北朝鮮が彼とその一族の後継者によって形作られた国家であることを理解するだろう。