ブックレビュー
| 原題 | The Line of the Ball |
|---|---|
| 著者 | Beh Chun Chuan |
| ページ数 | 176 |
| 分野 | 企業、経営、ビジネス自己啓発 |
| 出版社 | Forbes Books |
| 出版日 | 2025/11/04 |
| ISBN | 979-8887507347 |
| 本文 | 本書は、マレーシア最大の総合ヘルスケア企業、BP Healthcare Groupの創業者の倫理的リーダーシップと人生哲学を凝縮した自伝である。貧しい農村での幼少期から、巨大企業を築くまでの道のりが、「ライン・オブ・ザ・ボール(ポロ競技におけるプレー優先権であり、安全にアプローチするための道筋)」という哲学を核に描かれている。この哲学はビジネスにおいては「倫理的な行動規範」と「先行者利益」を指す。 著者は幼い頃から家族経営の果実卸売業を手伝う中で、「所要時間の重要性」や「正直な商売」の原則を学び、またボーイスカウトの活動を通じて「常に備えよ」の精神を培った。 やがて、国内では貴重な専門資格を持った医学微生物学者となった著者は、利益追求に偏りがちな食品検査ラボではなく、「正直さと透明性」が必須の医療分野を選び、先行者利益の戦略と迅速な意思決定で事業を急成長させた。倫理的な正しさで選んだ経営判断が、結果的に最も競争優位性の高い道だったのだ。 事業の急成長は、ラボ、物流、検査設備を全て自社で管理するワンストップ・センターの利点を最大限に活用し、他の病院よりも迅速かつコスト効率の高い無休のサービスを可能にしたことから始まった。さらに、どの病院を訪れても高品質な医療を受けられるよう、医師の医療技術と医療サービスの水準を統一化し、国際的な品質基準も獲得することで、揺るぎない信頼と地位を確立させた。これは、マレーシアの医療界における革命だった。この経営哲学の根幹は、「患者とスタッフを第一とすれば、利益は後からついてくる」という奉仕の文化である。 また、本書では、家族の価値観の重要性を掘り下げている。著者は母親から受け継いだ「謙虚さ」や「自分から先に挨拶をする」という教訓を子どもたちに伝え、家族経営の強みとしている。亡き息子Chevyの残した、自社の規模拡大の功績を通じて、次世代への事業継承に伴う苦悩と希望が、率直に語られる。 著者は慈善活動家としても活動を続けており、成功の果実を教育、スポーツ、環境保護に還元する社会貢献の義務を信念としている。特に、かつて国際大会で活躍したポロ競技への情熱を、現在は国際的なチャリティ活動へ注いでいる。 70歳が近づく今、著者は、物質的な成功の頂点に立てた一方で、増える資産の管理に伴うストレスに直面している。しかし、真の喜びは家族、仕事、そしてたゆまぬ挑戦の中にこそあると語り、本書を通じて、謙虚さと不屈の精神を持って「正しい道」を歩めば、夢は実現できると伝えている。 |