ブックレビュー ブックレビュー

原題 The Yellow Book of Brand Building (Žltá kniha)
著者 Michal Pastier
ページ数 608
分野 マーケティング、経営
出版社 barecz & conrad books
出版日 2023/10/25
ISBN 978-8082580115
本文 本書は、ブランド構築をゼロから体系的に学べる実践書だ。それも、ひとびとの秒単位の注意力を奪いあう、カオスな超競争時代において、どうしたら勝ち残るブランドを築くことができるかに焦点が置かれている。

全体は3つのフェーズに分けられている。まず、〈フェーズ1:準備〉では、ブランドの価値観や特徴、市場での進むべき道筋、初期ファンの定義など、ブランドの出発点をつくる工程を扱う。〈フェーズ2:要素づくり〉では、ブランドの核となる〈らしさ〉の形成方法から名づけの仕方まで、ブランドを構成する重要要素のつくり方が具体的に示される。〈フェーズ3:コミュニケーション〉では、ブランドをどう伝え、魅せ、継続し、増幅するかという実践的なアプローチを学ぶことができる。

各フェーズは4章立てで、いずれの章でも手順やステップが綿密に説明される。さらにそれらを徹底的にブレイクダウンしていき、最終的に具体的な実践へと着地する。全フェーズにおいて網羅的で、情報量も豊富だ。全体で約600ページとボリュームはあるが、200点を超える図表、グラフ、具体例のおかげで読みやすく、著者のフランクながら熱のこもった語り口で読み手の気持ちを高揚させ、どんどん先へと進ませる。

本書の特徴として、〈5つの必勝ステップ〉というような万能ルールは存在しないと明確に示し、文脈で考える重要性をくりかえし説く点があげられる。そのため、本書も成功を保証するわけではなく、ブランドが成功する確率を上げるための思考・方法を提示する。こうした姿勢には誠実さがある。また商標登録をはじめとした知的財産保護の重要性もカバーされており、著者ならではの豊かな経験が随所で光る。

想定読者は、起業家やマーケターだけに限らず、個人でブランドを立ちあげたい人からマーケティング未経験者まで、広範囲にわたる。ブランド構築に興味があればだれにでも役に立つ、まさにガイドブックだ。よく目にするような既存ブランドを拡大するための本ではなく、ブランドを0から創出するための理論と実践を、体系立てて惜しみなく示す貴重な一冊といえるだろう。