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原題 A Better Death
著者 Jonathan Romain (Author)
ページ数 136
分野 思想哲学、社会問題、医学
出版社 Reaktion Books
出版日 2026/02/01
ISBN 978-1836391647
本文 医療の進歩によって寿命が延びる一方で、必ずしも健康寿命が延びているわけではない現代社会。耐え難い苦痛や尊厳の喪失を伴う生の終末に直面した人が、自ら死の時期を選び、他者がそれを介助すること(Assisted Dying)が、世界各国で社会的に議論されるようになった。

著者は次のように問いかける。
「人間の命は神聖なものであるが、人間の尊厳も神聖なものである。緩和医療では解決できない耐え難い苦痛に苦しみ続ける人の苦痛を取り除く唯一の方法が、死であるとしたら、その死にゆく人から死を選ぶ権利を奪うことはできるのか。神が決めた寿命を自ら終わらせることが命の冒涜なら、苦しむ人の苦痛を長引かせることも命の冒涜であるのではないか。」

本書では、英国を中心とした「死の介助」をめぐる運動の歴史、世界各国の制度(スイス、米国、オランダなど)、医療界や宗教界の議論、そして英国議会における法制化の動きを詳しく紹介している。数多くの実例を通して、終末期医療の現実と、患者や家族の葛藤を描きながら、死をめぐる選択の自由と弱者への社会的圧力という懸念の間で揺れる議論を丁寧に整理していく。

日本は世界でも有数の高齢社会であり、終末期医療や尊厳ある最期のあり方は、今後ますます重要な社会的課題となると考えられる。しかし日本では、延命治療の中止や尊厳死については議論されることがあっても、人は「いつ、どこで、どのような最期を迎えるか」という問題を社会全体で議論する機会は必ずしも多くない。本書は、海外での議論や実例を通して、終末期の生と死について考える材料を提供するものであり、日本の読者にとっても大きな示唆を与える一冊である。

重いテーマを扱いながらも、人が自らの最期の時を準備し、家族と穏やかな時間を過ごすことができる未来の可能性についても光を当て、読者に希望と新たな視点を提示している。高齢化が進む現代社会において、「どのように生き、どのように死ぬか」という根源的な問いを読者に投げかけている。