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原題 Musicologia: Musical Knowledge from Plato to John Cage
著者 Robin Maconie
分野 音楽学
出版社 The Scarecrow Pres
出版日 2010/7/9
ISBN 978-0810876965
本文 本書の題名である「Musicologia」とは音楽理論のことである。作曲家でもある著者は、音楽には意味はない、音楽は聴いて楽しむものだ、という世間に広まる誤解に立ち向かうために本書を執筆した。

著者は、音楽も個人や社会の意識の根本的問題を探究する手段なのだと主張する。ピタゴラスやゼノン、ケプラー、ニュートン、アインシュタインの発見も、音楽を聴くという伝統がなければ成しえなかったのだ、と。

アメリカの作曲家ジョン・ケージは、近代西洋音楽の枠組みを解消し、偶然性・不確定性の領域へと踏み込んだといわれる。東洋思想にも共感していたというケージの代表作は『4′33″』だ。これは4分33秒(273秒)間の「無音」の曲で、クラシック音楽のゼロ地点、核による全滅に対する答え、と称されている。この曲を「聴いた」観客は、「信じられない」とざわつき、当惑し、怒った。しかし、この沈黙は「完全な不在」という概念の理解に対する挑戦であり、音楽と文化のもつ重要な含意を引き出した。

本書では沈黙、コミュニケーション、自我、バランス、運動の根本的考察から、カオス、規律、相互依存、人工知能といった最近の問題まで採りあげている。著者は、現代音楽の形式で最も議論の的となる側面さえ、科学と哲学の普遍的な命題に取り組む幅広い努力の一環として示している。

本書を読めば音楽の考え方、聴き方は全く変わってくるだろう。さらには科学や哲学、自分を取り巻く世界も今までとは違って感じるかもしれない。本書を読んで、音楽を聴いて新たな知的体験をしてみてはいかがだろう。