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原題 Mutter Teresa: Die Wunderbaren Geschichten
著者 Leo Maasburg
分野 宗教/キリスト教/伝記
出版社 Pattloch(ドイツ)
出版日 2010/4/1
ISBN 978-3629022486
本文 奉仕活動のため、カルカッタ、ローマをはじめ世界中を飛び回っていたマザー・テレサ。彼女については、伝記に限らずさまざまな本が出版されている。しかし本書は、マザー・テレサについて書かれた数々の関連本の中でも特別な1冊だ。著者であるレオ・マースブルクは、1982年に司祭に任命されてから、長年にわたってマザーの旅行に同行し、間近で接した人物である。しかも、単なる同行者だったのではない。あるときは通訳兼運転手、あるときはマザー・テレサにとっての司祭であり司牧であった。

本書は23の章から構成され、各章で、著者が経験した数々のエピソードが紹介されている。マリア像をモスクワへ密かに持ちこんだこと、レーニンの肖像の下で居眠りをしたこと、スペインの鉄道会社のマネジャーと交渉して土地を安く買い取ったこと……。これまでのイメージとは違ったマザー・テレサ像が、生き生きと描かれている。聖女として扱われるマザー・テレサだが、実際にはたぐいまれなる行動力と、人を動かすカリスマ性を持つ人物だった。そのいっぽうで、各章にちりばめられたマザー・テレサの珠玉の言葉には、人間に対する深い洞察力と愛情とが感じられる。
貧しい人々の中でももっとも貧しい人々のため、マザー・テレサはすべてを投げ出し、無一文でカルカッタの貧民街から救済活動を始めた。その活動は、彼女の信仰において特に重要な意味を持つ、キリストの「渇き」を癒すことだった。なぜ、マザー・テレサはもっとも貧しい人々のために尽くしたのか――本書の中での彼女の言葉を通して、それを深く理解することができるだろう。