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原題 Call the Midwife: A True Story of the East End in the 1950s
著者 Jennifer Worth
分野 文学/歴史
出版社 Orion
出版日 2007/6/13
ISBN 978-0297853145
本文 1950年代のロンドン、イーストエンド。売春宿にギャングの抗争、被爆地域の酔っ払いたち。貧困と犯罪があふれる世界がここにある。1870年代以降、警察以外誰も立ち入らないこのスラム街の看護に従事してきたのは修道女たちだった。当時22歳で、この修道女たちの下で見習い助産師をしていた著者は、本書で、自らの忘れがたい体験と当時の社会の様子を交えながら、このイーストエンドで暮らしていた人々を生き生きと再現した。

崩れそうな長屋家屋にひしめきながら住む住人たち。著者は助産師として赤ん坊の誕生に携わりながら、彼らの生活に、下町ならではの血の通った温かい繋がりを感じるようになる。住人たちは互いに助け合うために、家に鍵をかけずにいる家族同様の仲間たちだ。どんな過酷な環境にあっても、人生の希望と喜びに向かって懸命に生き抜く彼らの姿は感動的だ。そして、想像を絶する場所で生まれてくる死と隣り合わせの新しい命。赤ん坊を抱く母親の喜びに満ちた輝きが、著者に助産師としての充実感や達成感を与えていた。

また、出産に携わった女性や家族だけでなく、修道女の閉鎖的な社会や、著者と共に学んだ見習い助産師たちについても描かれている。修道女たちは、信心深く、賢く、その献身的な活動はすばらしいが、しばしば風変わりな行動をする。彼女たちの辛らつでこっけいな舌戦も面白い。

本書はフィクションではない。1950年代、確かにそこに存在した、真実の人間劇だ。「助産師3部作」の幕開けにふさわしい感動の第1作!