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原題 오후 3시의 도쿄(午後3時の東京)
著者 황보은(ファン・ボウン)
分野 エッセイ
出版社 하다(ハダ)
出版日 2010/6/25
ISBN 978-8996405924
本文 生まれて初めて東京へ来た日の夜、ホテルの部屋から見える東京タワーに感激しながらも、パリのエッフェル塔を夢見ていた少女が、再び東京を訪れた。その理由はただ一つ。「観光ではなく、東京の日常を見たい」。そんな思いにかられた著者は、夫に離職をせまり、共に東京へ移る。

来日当初、日本語を話せない夫妻にとっては、スーパーでの買い物さえも冒険そのものだった。並んでいる商品の名前どころか、それが食べ物なのか日用品なのかさえもわからない。そんな状態で瑞江に居を構えた二人は、日々の生活の中で旅行ガイドには載っていない日本を発見していく。

韓国語の看板など見当たらず、何日たっても韓国人に出会わない、時間をつぶせる観光スポットもない住宅地の中にある魅力的な場所。下北沢の小さなライブカフェ、川越のサツマイモ菓子店、西荻窪のアイスクリームショップ、麻生十番の祭り、路面電車や金魚すくい、初対面にもかかわらず気軽に話しかけてくれる「おばさん」との会話を楽しめる銭湯。旅行者として観光コースを回るだけでは決して触れられない「異国での日常」を、五感を通じて味わい楽しむ様子が、著者自身が撮影した豊富な写真とともに描かれる。

日本人にとっては当たり前でも、外国人の目には興味深く映るものがたくさんある。日本に、東京に興味を抱き、細やかで温かな視線で眺める著者の描写は、私たちが普段気づかない、日常に隠された小さな「日本らしさ」を浮き彫りにする。