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原題 BOTTICELLI
著者 Ana Debenedetti
ページ数 232
分野 美術・芸術
出版社 Reaktion Books
出版日 2021/09/30
ISBN 978-1789144383
本文 ルネサンスの芸術家ボッティチェリの性格や彼の作品について、その背景となった当時の環境を踏まえて考察する。最新の知識や74点にもおよぶ図(うち73点がカラー)も織り交ぜ、はっきりと分かりやすく解説している。

冒頭からボッティチェリの人となりについて親しみやすい口調で語られており、ボッティチェリや絵画についての知識のない読者でも抵抗なく読み進められる。落ち着きのない少年だったという幼少期の描写には、現代の読者も親しみを持てるのではないだろうか。ミケランジェロやダヴィンチなどを引き合いに出しているところも興味深い。

一方で、工房の編成や、非常に競争の激しかった当時のフィレンツェの美術市場で道を拓こうとした彼の商業的戦略を通して作品を考察しているほか、彼に関わった人物たちについても非常に詳細な説明がなされており、美術に詳しい読者も新しい発見をすることができるだろう。多くの作品を生み出すために、アシスタントらと協力し委託や共作という方法を巧みに取り入れていた彼の制作の姿勢は、意外に映るかもしれない。

さらに、フィレンツェの社会や文化も視野に入れて、『ヴィーナスの誕生』『プリマヴェーラ』を含むボッティチェリの数々の名作を、タペストリーや刺繍など比較的馴染みの薄い形式のものとともに再評価する。ボッティチェリの作品の多用さ、様々な媒体で発揮されたデザインの才能が感じられる一冊となっている。