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原題 Where Light in Darkness Lies
著者 Veronica della Dora
ページ数 280
分野 歴史, 文化
出版社 Reaktion Books
出版日 2022/03/14
ISBN 978-1789145496
本文 1890年9月16日、和歌山県紀伊大島の東端断崖にたつ樫野埼灯台に、一人の大きな外国人の男が血まみれで駆け込んできた。その体は全身ずぶ濡れだった。男のただならぬ様子に、灯台守は海でたいへんな事故が起きたのだと察知した。地元住民にも協力を求め、すぐさま生存者の救助にあたった。住民たちの中には彼らに食糧や衣服、住まいまで提供する者もいた。オスマン帝国の軍艦エルトゥールル号が遭難し、500名以上の犠牲者を出した海難事故。後に日本とトルコの深い友好関係へとつながっていく、その物語はこの白亜の石造灯台からはじまった。
灯台の起源はおよそ2000年以上前にさかのぼる。紀元前279年、エジプトのアレキサンドリア港の入口、ファロス島に建てられたファロス灯台が世界最古の灯台だと言われる。日本ではおよそ1300年前、天皇の使の舟が唐に渡った帰り、行方不明になることが多かったため、九州地方の岬や島で、昼は煙をあげ、夜は火を燃やして船の目印にしていたとされる。灯台はその外観や灯光により船舶の航行目標として長らく重要な役割を担ってきた。
 ところが昨今、GPSをはじめとする航海技術の進歩にともない、灯台はその役目を失いつつある。老朽化を理由に、取り壊しが予定されている灯台も少なくない。
その一方、灯台の解体に反対する声も大きい。海洋船舶の安全確保はGPSなどの技術だけでは不十分で、目視で安全を確認できる灯台は無くてはならないという意見もある。また人工物でありながら、美しい景観にこれほど違和感なく溶け込める建造物も珍しい。灯台は優れた文化財であり、観光資源でもあるのだ。
 本書はカラフルな写真をふんだんに織りまぜながら、灯台の持つ魅力とその裏側に隠されたエピソードを紹介していく。実は世界各国の灯台を訪れる「灯台マニア」も数多い。そうしたマニアでなくとも、一読すれば灯台に足を運んでみたくなるような一冊だ。