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原題 Postcards
著者 Lydia Pyne
ページ数 232
分野 歴史, 文化
出版社 Reaktion Books
出版日 2021/10/18
ISBN 978-1789144840
本文  1869年、オーストリア・ハンガリー帝国で世界初となる郵便葉書が発行された。その翌年の1870年には、プロイセン(現在のドイツ北部からポーランド西部にわたって存在した王国)で、簡素なイラストを印刷した絵葉書も発行されている。その後、葉書を使用する人々の数は激増し、第二次世界大戦勃発前にその人気はピークを迎える。1900年から1920年までの20年間で、世界中でやりとりされた葉書の数はおよそ2000憶通にものぼると推定される。葉書を使えばメッセージやイラストを、安価で手軽に世界中へと届けられる。送り手と受け手の気持ちをこれほど結びつける印刷媒体は他に類を見ない。
 ところが、それから100年を経た現在、人の心をつなぐという葉書の役目はインスタグラムやツイッター、TikTokなどのSNSへと受け継がれ、葉書を書く人の数は激減している。
「葉書について本を書くの?」
「今どき、葉書なんか書く人いる?」
本書の執筆時、著者は周囲からこうした質問を何度も受けたという。
 しかし、葉書が世界で初めて発行されて百数十年たつが、その歴史的、文化的意義は計り知れないと著者はいう。著者はこれまで様々な葉書を目にしてきた。本人直筆の文字、個性豊かなイラスト、多種多様な切手、行間に含まれた感情。葉書ほど人間のコミュニケーションや歴史文化について教えてくれる一級の文献資料はないと著者は確信している。
 本書では歴史や科学技術、芸術文化などさまざまな側面から、グローバルにつながるソーシャルメディアの元祖、葉書について検証していく。さらに、激減したとはいえ、21世紀を迎えた今日もなお生き続ける葉書の真の姿を描き出す。