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原題 Moving to Higher Ground
著者 John Englander
ページ数 244
分野 環境・気候変動・経済・危機管理
出版社 he Science Bookshelf
出版日 2021/04/06
ISBN 978-1733499903
本文 人類の活動の影響から、地球は気候変動の危機にさらされている。陸地の氷は解け続け、海面は有史以来見られなかったほどのスピードで上昇している。本書は、海面上昇(Sea Level Rise、略;SLR)の最新の状況や予測、そして財産や家族を守るために何をするべきなのかを読者に示す。

二酸化炭素などの温室効果ガスの影響により、海には過剰な熱が蓄えられている。その量は、広島や長崎に投下された原子爆弾50万発が一気に爆発した時に匹敵する規模だ。すでに熱が蓄えられているので、今すぐに二酸化炭素の排出をやめたとしても気温の上昇は止められず、数世紀上昇したままとなるはずだ。今世紀末までに海面がどれほど上昇し、海岸線はどれだけ早く沈むのか。その予測を立てるのは難しい。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル、International Panel on Climate Change)は国際的な専門家集団であり、地球温暖化関連の研究を収集・整理している。数年おきに2千人の専門家たちによって1000ページに及ぶ報告書が作成されている。この報告書は、重要な影響力を持つ指針であるが、海面上昇に関しては少々楽観的な予測をしている。今世紀末での予測には4段階のシナリオがあり、最善のシナリオでは二酸化炭素の排出が激減するが、最悪のシナリオでは82センチ上昇が見込まれるとしている。しかしアメリカの機関などは、2.5mから3mの上昇を見込んでいる。そのほかにも、科学者やエンジニア、公共の危機管理部署などがそれぞれの立場や将来の対策を見越しての予測をしており、予測の数値は幅広い。

2050年までに海岸付近の以上1万の共同体は深刻な影響を受けるとみられている。海面上昇により、経済的危機や環境危機に陥る可能性が出てくる。本書は、軍隊やインフラ、建築家、行政、銀行、保険会社、不動産業界それぞれが直面する問題や解決方法を探っていく。
街を守るために、高い壁を作る、建物などを浮かぶようにする、高台に移動する、町全体の保水力を高めるスポンジ・シティ化する、などの策も挙げられているが、そうした大規模で国境を越えた計画を、誰がリーダーシップをとって進めていくのかという難しい問題を提示している。緊急に策を講じる必要があるが、役割分担に手間取っていれば手遅れとなってしまう可能性がある。
 気候変動による衝撃的な影響を科学的に分かりやすい言葉で伝え、せまる危機を回避するために私たちや社会がやるべきことを示した一冊だ。