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原題 Migrants
著者 Sam Miller
ページ数 448
分野 歴史、人類学
出版社 hachette
出版日 2023/09/06
ISBN 978-1408713549
本文  1987年、米カリフォルニア州立大学バークレー校のアラン・ウィルソンとレベッカ・キャンを中心とする研究グループは「現生人類アフリカ単一起源説」を発表した。この仮説によれば、今からおよそ15万年から20万年前、人類共通の祖先がアフリカ大陸で誕生し、やがて世界中に拡散していったという。
 ホモサピエンスが地球全体に広がっていった、この史上最大の旅路を、イギリスの考古学者ブライアン・M・フェイガンは「グレート・ジャーニー(Great Journey )」と名付けた。現代のような移動手段のない遙か太古の昔のことである。もしこの仮説が正しければ、数万年という途方もない時間をかけ、自らの足で歩き、世界各地に移住していったことになる。この地球上に生息する哺乳類の中で、人間ほど長距離の移住性を有する動物は存在しない。
 人々は様々な理由から遠方への移住を強いられてきた。氷期と間氷期を繰り返す地球環境の変動は、移住を促す要因になりうる。また内戦や貧困、差別や迫害から逃れるために祖国を後にする者も少なくない。
 その一方、純粋な好奇心や冒険心から異国の地を目指す者もいる。そうした精神は、ついに宇宙へと向けられるようになった。特別な訓練を受けていない民間人が宇宙への小旅行に出発するようになり、ゆくゆくは月や火星への移住化計画の可能性も模索されている。数万年前に始まった人類のグレート・ジャーニーは、いまなお終わっていないのだ。
 こうした移住という行為は、人間のライフスタイルや思考・行動様式にも大きな影響を及ぼしているが、そのことは一般に軽視、誤解されていると著者は主張する。本書は英BBCの元ジャーナリストである著者が、民族性や宗教、テロ行為や人種差別など、移住という行動が人類の歴史上で、どんな現象を生み出してきたのかについて検証していく。