ブックレビュー ブックレビュー

原題 ‘Race Is Everything’
著者 David Bindman
ページ数 352
分野 歴史/美術
出版社 Reaktion Books
出版日 2023/05/01
ISBN 978-1789146967
本文  私たちは(特に外見の)差異によって人々を判断してしまいがちだ。この差異のイデオロギーは私たちの考え方に根づいてしまっているため、偏見を抱いていること自体に気づかず、自分の見ている像が真実だと思い込んでしまう。人種をめぐる偏見は、視覚芸術である美術に如実に示されているが、美術史家がこの問題に積極的に取り組むことはなかった。

本書は、これまで無視されてきたこれらの人種問題に焦点を当て、アフリカ人からユダヤ人にいたる人種が美術においてどのように表象されてきたかについて検討する試みである。19世紀から20世紀前半にかけて、骨相学や優生学といった「人種科学」が隆盛をきわめ、一見科学的なよそおいを凝らして人種差別を正当化する道具として使われた。「科学的」という口実のもとに、外見が内面や知性と結びつくという考えがまかりとおり、科学的な根拠があるかのような人種のヒエラルキーが形成されたのである。美術、人種問題の両分野に詳しいデイヴィッド・ビンドマンは、アメリカ南部の奴隷制の先例とも言うべき古代エジプトにも目を配りつつ、ダーウィンの進化論から優生学への流れや、普仏戦争、ドレフュス事件などにおける人種科学の流れを追い、美術がこの考え方にどう影響を受けてきたのかを考察する。

フレデリック・ダグラスやW・E・B・デュボイスといった人種差別と闘う人々にも筆を費やす本書は、今なお根強く残る人種差別に警鐘を鳴らすとともに、美術作品を愛好する人々にも、美術の新たな見方を提供してくれることだろう。