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原題 Hoofprints on the Land
著者 Ilse Köhler-Rollefson
ページ数 288
分野 自然/環境
出版社 Chelsea Green
出版日 2023/01/05
ISBN 978-1645021520
本文  30年前インドでラクダの畜産と社会経済学について研究しようとしていた作者は人づてにラクダの放牧をするためにシバ神によって生み出されたと言われるライカ族に出会う。ラクダの肉と乳を売って生計を立てる彼らの生活は厳しいが、そこには神から与えられた使命に対するプライドと「動物たちは私たちの子どもみたいなものだ」という強い思いがある。しかし今では若者たちは生活のため都会に職を探しに出ざるを得ない。ラクダや家畜との親密なつながりは過去のものになってしまった。地域の象徴を何とか守ろうと行政は輸出とと殺を禁じたがかえってライカ族の収入減を奪ってしまう結果になった。彼らのすばらしい文化はもはや風前の灯火である。
  
にもかかわらず30年の月日をライカ族と過ごした筆者は、動物の群れを追い、広大な辺境の地を、時には大規模な耕作が行われ人が密集している風景のなかを移動していく人々とその文化の中にこの地球を再生・復興させるカギがあると主張する。1万年にも及ぶ彼らの王国を、生態学、放牧地管理、土壌学、文化人類学、開発経済学、環境科学、栄養学といった分野を通じ研究することによって、その成果を今人類が直面している多くの問題、例えば気候変動による悪影響、生物多様性喪失の連鎖、誤った食事、抗菌薬耐性や新たに登場した病気などから生じた公衆衛生の問題に適用することができると言うのだ。人々は動物たちとの絆をどのように作り上げ保ち続けてきたのか。不要物をいかに食料やリサイクル可能な自然資源に変換するか。こうした問いにはかつては世界のどこにでもいた遊牧民の知識と実践が解決のカギとなるだろう。さらに家畜との結びつきを思いやりのある共生関係に再構築するため将来に向けた適切な家畜飼育の構想も提案されている。