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原題 Biocivilisations
著者 Predrag B. Slijepčević
ページ数 272
分野 生命科学/生物/環境保護
出版社 Chelsea Green Publishing
出版日 2023/05/18
ISBN 978-1645021384
本文 生命とは何か。おそらく科学全体を通じて最も重要な問いだ。科学者の中には、生命を説明するためには、遺伝子情報などの科学理論だけを考えればよいという人もいる。しかし、ここまで複雑な世界で、本当にそんな主張は正しいのだろうか。
この主張に疑問を投げかける科学者、哲学者などの専門家が増えている。それは、単純化しすぎるという批判だけではなく、誤解を招くことにもなりかねないと恐れているからだ。もし生命を単純な原理で説明を試みようとしても、生命のもつ創造力をどう説明していけばよいのか疑問が残る。

本書は、生命の謎とその深い不確実性を探求する画期的な書籍だ。著者は、従来の、人間ありきで展開した科学的な議論ではなく、生命の誕生とその奥深い不確実性を探究している。地味な細菌が、30億年も前に地球の生命をもたらし、都市に相当するようなものをどのようにつくり出して、それを情報経路でどうつないでいったかも説明している。他にも、バクテリア、アメーバ、植物、昆虫、鳥、クジラ、ゾウ、その他数え切れないほどの種が、人類に先立ってどう存在したかを示している。複雑なコミュニケーション、耕作、科学、芸術、医学など、人類だけの成果と思われている文明の複雑さを、人類以外の生物で実証している。地球上に存在した生物の 99.99 パーセント以上は人類なしでも生息できたし、これからも生き続けることができるだろう。
人類は、自分たちの文明よりずっと前から存在していた他の生物の文明から、知恵を授かるように努めるべきだ。現在の科学的認識体系を再考することで、人類は、地球に現れて間もない傍若無人な種のような存在から、環境と調和したより賢い種として変貌をとげるべきだ。この変貌によって人類は自滅することもなく、自分たちが地球環境に押しつけたことによって起こる猛威を遮ることもできるはずだ。