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原題 The Point of the Needle
著者 Barbara Burman
ページ数 288
分野 歴史、工芸
出版社 Reaktion Books
出版日 2023/10/09
ISBN 978-1789147193
本文  毎日、世界の何千万という人々が生活のために、あるいは自らの楽しみのために裁縫を行っている。今あなたが身に着けているジーンズやシャツ、トレーナーは、何千回も縫うという作業を経て完成されたものだ。人類が誕生してほどなくして登場した裁縫という技術は、きわめて古い歴史を持ち、現代の日常生活でも不可欠であるにもかかわらず、驚くほど過小評価されている。その歴史を語った文献も少ない。その不当な扱いを正そうとして書かれたのが本書だ。

本書の第1章から4章までの前半では、裁縫にかかわる基本的な事実、方法、作業に焦点が当てられる。最初に取り上げられるのは、裁縫で最も複雑な道具、つまり針を持つ人間の手だ。手と脳のつながりを明らかにし、私たちが縫うという行為をどのように行っているかを考察することで、裁縫が健康にもつながることが示される。次に、人は裁縫をどのように習得するかが文化的な背景も視野に入れつつ考察され、布や針、ハサミなど、裁縫に必要な素材や道具にまつわる物語が詳述される。第5章から8章までの後半では、裁縫の人間的な側面に焦点が当てられ、趣味として自らの楽しみのために裁縫を行っている人々の郷愁を呼び起こすような回想とともに、主に発展途上国において厳しい労働条件下で生活のために仕事として裁縫にたずさわる人々の声も紹介される。裁縫は、衣服という直接的、物質的な成果物を生み出すだけでなく、関係者々にさまざまな形で影響をおよぼす作業なのだ。

近年、裁縫が再評価され、アマチュアの裁縫のコミュニティを作る動きもさかんだ。かつて学校の家庭科の授業で学ばれ、女性だけがするものという扱いだった裁縫は、そのような偏見とは無縁の人々によってまったく新しい形でよみがえりつつある。長い間、針を手にしてないとしたら、今こそ再び裁縫に挑戦するチャンスだ。