トランネット会員とは トランネット会員とは

トランネット会員の翻訳ストーリー トランネット会員の翻訳ストーリー

甲斐理恵子(第490回オーディション作品入賞者)

第490回 オーディション 作品入賞

訳書名 『時の番人』
訳書出版社 株式会社静山社


翻訳ストーリー

 翻訳を仕事として意識したきっかけは、学生時代に見たテレビドラマだった。主人公の母親が翻訳家という設定で、家事の合間に食卓に原書と辞書を広げ、原稿用紙にすらすらとペンを走らせていた。その姿の優雅なこと。ひとりで家ででき、時間も自由に使えるなんて、すばらしい。こうして頭の中に誤った翻がきらきらと形成された。
 もちろんその像は、通信教育修了後にリーディングや下訳の仕事を頂けるようになった途端、がらがらと崩れ落ちる。家でできるイコール簡単にできるという意味ではない、と思い知った。締め切りまでの日数と、己の能力を踏まえてスケジュールを立て、黙々と作業を進めなければならない。睡魔とも闘わなければならない。すべてが自己管理の孤独な仕事だ。孤独ではあるが、ビジネスである以上、社会常識も必要だ。そもそも引きこもっていては仕事などもらえない。出版翻訳の世界の入り口には立った。しかし、つぎの一歩を踏みだしてなんとか訳者として実績を積みたいと考えても、そこから先の道がどこにあるのか、わからなかった。
 そんなふうに悶々としていたときに出会ったのがトランネットだ。オーディションという厳しい制度ではあるが、そこにははっきりと翻訳の世界へ分け入る道が見えている。納得する訳文に仕上がらず、提出すらできずにあきらめた課題も多々あったが、ようやくなんとか入賞することができ、翻訳は優雅ではないが楽しい仕事だと再認識する機会に恵まれた。孤独だと感じる間もないほどコーディネーターの方々にも支えて頂いた。振り返ってみると、この世界に足を踏み入れたのは美化されたイメージがきっかけだったが、最初から厳しさを知っていたら易きに流れて挑戦すらしていなかったかもしれない。原稿用紙の出る幕はなく、締め切り間際は体力勝負の仕事だが、今回のオーディション合格がまた新たなきっかけになるように、これからも努力を続けたい。

福田篤人(第494回オーディション作品入賞者)

第494回 オーディション 作品入賞

訳書名 『サイレント・ニーズ ありふれた日常に潜む巨大なビジネスチャンスを探る』
訳書出版社 英治出版株式会社


翻訳ストーリー

 外国語が専攻ではありましたが、学生時代からはっきりと翻訳者になりたいと思っていたわけではありません。ただ、言葉が持つ可能性の深みや面白さに囚われてまっとうに就職することもせず(できず)、いつしか翻訳関係のアルバイトをして過ごすようになっていました。言葉の面白みを感じられるかどうかが重要だったので、自分の抱いているものを翻訳者への志というべきか、と問われると今でもわかりません。しかし、少なくとも的外れではないのだろうと考えるに至っています。
 ともあれ、そうして漠然と過ごしていた私にとって、トランネットのオーディションは魅力的でした。実際の出版業界から評価を受ける機会は貴重なものですし、成果がすぐ出るほど甘いものではないことをさておき、うまくすればその本の訳者になれるとあれば、やりがいも報酬も格別です。
 『サイレント・ニーズ』は厳密にいうとトランネットを通じて頂いた二冊目となる書籍の仕事でしたが、一冊目とは専門分野も対象読者も違うものでした。しぜん原文の解釈や訳文の言葉遣いは違ったものになりますし、専門知識についても洗い直しや追加の勉強が必要になります。それこそ言葉の面白み……とはいえ、仕事として見るとその労力は膨大で、悩ましいところです。トランネットの担当者様や編集者様のご協力が無ければ無事に訳をまとめることはできなかっただろうと考えると頭が上がりませんが、お陰様で数か月は文字通りに寝食を忘れて言葉の世界に没頭することができました。
 トランネットのオーディションや紹介を通じて出会える世界は同じ翻訳と言ってもそれぞれに毛色が違い、挑戦のしがいがあります。お仕事を頂いたと言ってもまだまだ若輩者に過ぎませんので、積極的に翻訳できるジャンルの開拓をしていきたいと思っています。そしてもちろん仕事をただ頂く以外にも、企画段階からの持ち込み、あるいは本以外の媒体など、翻訳者としてできることを広げる機会があれば何でもやってみるつもりです。

大間知知子(第488回オーディション作品入賞者)

第488回 オーディション 作品入賞

訳書名 『世界の哲学 50の名著 エッセンスを究める』
訳書出版社  株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン


翻訳ストーリー

 いつか翻訳書を出したいという夢を持っていた私は、翻訳学校で勉強したあと、いくつかの翻訳コンテストで賞をいただきました。しかしそれがなかなか仕事につながらないのが悩みでした。リーディングや下訳の仕事を何年か続けたあと、3年前に念願かなって翻訳書を出すことができましたが、さらに仕事の機会を広げたくてトランネットのオーディションに応募するようになりました。
 トランネットのオーディションは興味深い本が多く、いろいろな分野の本に触れられて挑戦しがいがあります。といっても私のオーディション挑戦は順調とはいきませんでした。最終選考まで残ったのが1回、あとは1次選考で落ち、5回目の挑戦で入賞のお知らせをいただいたときは信じられなくて、何度もメールを見直したほどです。哲学には縁がないからと敬遠せず、力試しのつもりで挑戦した結果が幸運につながりました。
 訳し始めてみると、哲学の本だったので英語を理解する以前に哲学を理解するのがとても難しく、翻訳する時間よりも哲学の解説書を読む時間の方が多いような毎日でした。この本ではじめて哲学者を知る読者もいるかもしれない。そう思うと緊張感でいっぱいでしたが、哲学者の人間的な面にも触れられて、学生に戻ったような新鮮な気持ちで訳せました。原書のページ数が多く、ペース配分が心配でしたが、トランネットのコーディネーターの方が原稿を定期的に見てくださることでリズムができ、何とか最後までたどりつけました。できあがった本を手に取ったときのうれしさと達成感は、何にも代えがたい宝物です。
 本書が出版されてまもなく次の仕事をトランネットからご紹介いただき、その本もコーディネーターの方のていねいなチェックのおかげで無事に出版されました。自然で読みやすい訳文というシンプルなことがとても難しく、1行の訳に悪戦苦闘する毎日ですが、著者と読者の橋渡しをする翻訳という仕事をずっと続けていきたいと思います。

浅田美晶(第487回オーディション作品入賞者)

第487回 オーディション 作品入賞

訳書名 『リトル・マーメイド 人魚ひめの物語』
訳書出版社 株式会社大日本絵画


翻訳ストーリー

 字幕翻訳の仕事に憧れて、映像翻訳の学校に半年ほど通った後、運良くいくつかの翻訳会社に登録させて頂き、英日の映像翻訳の仕事を3年ほどやっていました。映画、ドラマ、料理番組、スポーツ番組、ドキュメンタリーなどの映像翻訳以外にも、書き起こしや日英の翻訳の仕事もやりました。その後、夫の転勤で7年間日本を離れ、4年前に帰国したのですが、当然ながらその間に日本の翻訳事情はずいぶん変わっていました。
 今後どうしようか考えているときに、まずは以前から知っていたトランネットに登録することにしました。映像以外の翻訳にも挑戦したいとの思いがあったので、自分の力を試す良い機会だと思いました。特に絵本翻訳は昔から興味があったのですが、トライアルを実施しているところが少なく、トランネットの課題に絵本を見つけたときは、すぐに応募しました。絵本翻訳は予想以上に難しく、トライアルには何回か応募したのですが、自分の力不足を痛感。そんなことで「リトル・マーメイド」の仕事の依頼を頂いたときには大変驚きました。
 絵本翻訳は映像翻訳に似ていて、絵や映像を読み取る力が試される上、どちらも作者の言いたいことを、短い文章に訳さなければいけません。絵本翻訳は映像翻訳ほど字数が限られていませんが、年齢に合わせて平易な言葉を使わなければいけないので、単語選びには苦労しました。絵や映像を見ていると、自分の想像力が掻き立てられるので、訳を考えるのはとても楽しく、やり甲斐があります。最近トランネットでは、日英翻訳のトライアルも始まり、今後、絵本のトライアルも実施して頂けたら、ぜひ挑戦してみたいですね。

しばたまきこ(第484回オーディション作品入賞者)

第484回 オーディション 作品入賞

訳書名 『メロディポップアップ ピノキオ』
訳書出版社 株式会社大日本絵画


翻訳ストーリー

 子供の頃から本が大好きで、学生時代から児童文学の翻訳者になりたいという夢を持っていました。中でも、ページをめくるたびにワクワクする絵本を翻訳することは憧れでした。ですが絵本や児童文学の翻訳は需要が多くはないので、目指してなれるというものでもないと知って諦めていました。社会人になってからいくつかの翻訳学校に通ったことがきっかけで、なんとか児童文学1冊と絵本を1冊翻訳することができましたが、次の仕事が与えられる訳でもなく、この先どうしようかと考えていた時に、トランネットで度々、絵本のオーディションを実施していることを知りました。今度絵本のオーディションがあったら必ず応募しようと決め、毎日課題をホームページでチェックしていて目にしたのが「メロディポップアップ ピノキオ」のオーディションです。ビギナーズラックで運よく翻訳者に選んでいただきましたが、誰もが知っている「ピノキオ」の世界観を壊したくないというプレッシャーも出てきました。試行錯誤しながらも、楽しみながら翻訳することができたのは、ページをめくると音楽が流れるというしかけ絵本だったことと、温かみのあるイラストのお陰かもしれません。
 絵本の翻訳は、対象年齢ごとに使う漢字の量や言い回しを考える必要があり、平易な英文でありながら実に奥が深いと改めて感じます。自分の翻訳した文章を読み返しても、もっと違う表現にすれば良かったとか、ここはひらがなで表記すればよかったなどと、反省することばかりです。これからもできるだけ多くの絵本に触れて勉強する必要があると感じ、大学でグリム童話を研究する公開講座にも通い始めました。
 児童文学に軸を置きながら、今後は他のジャンルにも挑戦してみたいと思います。

小林玲子(第486回オーディション作品入賞者)

第486回 オーディション 作品入賞

訳書名 『がんばりすぎるあなたへ 完璧主義を健全な習慣に変える方法』
訳書出版社 株式会社阪急コミュニケーションズ


翻訳ストーリー

 学生時代から足かけ5年ほど翻訳学校に通い、昨年の冬「自分の力がどれだけ通用するか試してみたい」と、トランネットのオーディションに挑戦してみました。こうしていただいた最初のお仕事が、自己啓発本の『がんばりすぎるあなたへ 完璧主義を健全な習慣に変える方法』。200ページ近い原稿にまんべんなく目を通し、ムラなく仕上げるにはどうしたらいいのか。試行錯誤しながら1冊完成させたのは、貴重な経験になりました。
 2冊目は元マンチェスター・ユナイテッド監督による『アレックス・ファーガソン自伝』をご紹介いただきました。数年前からサッカーにハマっていて、現地まで観戦に行った身としてはこれ以上ないお話でした。1冊目よりはるかに分量が多く、スケジュールに余裕があるとはいえなかったのですが、なんとか切り抜けられたのは「サッカーが好きだったから」。単純に訳していて面白かったし、「こういう場面ではこんな言い回しをする」と、サッカーの「語りの型」がある程度頭に入っていたのも楽でした。翻訳者を目指す方は「このテーマなら(スポーツでも料理でも)何でも聞いて!」という分野を持っておくと、大きな武器になると思います。
 いまご縁があって3冊目を訳しながら思うのは「直訳と意訳のバランスをどう取っていくか」。2冊目を訳していた頃、自然な日本語とわかりやすさを重視して最大限なめらかに仕上げてみたのですが、読み返したときになんともいえない違和感を覚えました。「この訳者はちゃんと原文を尊重しているのだろうか?」と。日本語として体をなしていないような直訳は論外ですが、完全な日本語の文章もどこか胡散臭い。最適なバランスがどこにあるのか、今の私にはよくわかりません。ふたつの言語の間に立つ者として、右を見たり左を見たり、おろおろしながらも何とかこの仕事を続けていければ、と思っています。

大場眞知子(第483回オーディション作品入賞者)

第483回 オーディション 作品入賞

訳書名 『スーパー・ファット・ダイエット計画 細マッチョだった僕が34キロ太ってみてわかったこと』
訳書出版社 株式会社講談社


翻訳ストーリー

 定年退職をするにあたり、30年間の会社勤めで自分は何を培ってきたのだろう? と考えたとき、実は何もないことに愕然とし、生涯学習として選んだのが、翻訳でした。まさに60の手習いです。
 留学経験もなく、英文科卒でもなく、ただ勤めていた会社が外資だったおかげで、英語環境の中で仕事をし、英語には違和感がなかったのですが、翻訳学校に入り、冒頭一番に言われたのが、「あと10年はかかる」でした。翻訳家になることを目指すのではなく、ボケ防止のための勉強と割り切っていたところ、クラスメートの一人がトランネットのオーディションに応募し、入賞し、それに刺激を受けて、応募してみました。
『スーパー・ファット・ダイエット計画』は、デブッチョの旦那に読んで欲しい本でしたから、著者の気持ちが素直に伝わってきて、その気持ちに寄り添って、訳そうと思いました。
 とはいえ、初めてのことだらけで、間に入ってくださったコーディネーターさんには、懇切丁寧にご指導をいただき、尚且つ叱咤激励を受けて、なんとか無事に一冊を訳し終えることができました。本当に感謝です。英語の原書を読むようになったのも、学校に入ってからのことで、こんな、何もかも駆け出しの自分が、一冊の本を訳すようになったなんて、なんだか夢のようです。
 翻訳というのは、ただ単に、英語を日本語に置き換えるのではなく、いかに自然な日本語にするかという、日本語の力が大切なのだと、日本語の本も読むようになりました。「その意味は?」と常に噛み砕いた日本語を考え、「それ本当?」と疑問を持ち、リサーチを怠らず、英語の表現に慣れるように多読を心がけ、十人十色の訳し方があるのだと教えてくれる学校に今でも通い、クラスのみなから刺激を受けています。一冊限りの翻訳者にならないように、機会があれば、また挑戦したいと思っております。

二瓶邦夫(第482回オーディション作品入賞者)

第482回 オーディション 作品入賞

訳書名 『スタンフォードが最初に教える 本当の答えを見抜く力』
訳書出版社 株式会社徳間書店


翻訳ストーリー

 翻訳に興味を持ち始めたのは、20年近い海外生活を終えて帰国してからでした。英語には不自由しませんでしたが、ビジネス系の通信講座などで翻訳を学んでみて、英語が理解できることと、それを自然な日本語にする能力とはまったく別物であることに気づき、その奥深さを感じました。
 出版翻訳に関しては、某社の翻訳コンテストで翻訳新人賞をいただき、ミステリ小説を訳す機会に恵まれたことで魅力を感じるようになりました。そこには原文の微妙なニュアンス、言い回し、文章のつながり等々を、できる限り忠実に自然な日本語に直していかなければならないという、産業翻訳にはない醍醐味がありました。そして、良い翻訳をするためには文章力、語彙力をはじめとする日本語力の強化が欠かせないことを痛感し、ますます魅力を感じるようになりました。また、海外にいた頃は、ビジネス、マネジメント、自己啓発系の本を読むことが多かったので、こういった分野の翻訳にもチャレンジしてみたいとも思っていました。
 たまたまトランネットのサイトに出会ったのは、そんなある日でした。登録すると、募集中だったオーディション課題にすぐさま挑戦し、翻訳する機会をいただきました。それがこの『本当の答えを見抜く力』です。
 翻訳作業に入ると課題が見えてきました。原書を一読してみると、一般向けと称しながら数学的要素がかなり色濃い本でした。普通の読者が違和感なく読めるようにするのは至難の業のように思え、頭を抱えたのを覚えています。また、時間的にも締め切りまで1カ月半ほどとタイトで、年末年始をまたぐ時期だった上、父と愛犬がこの世を去るという不幸がそれに追い討ちをかけました。ただ、時間と交渉しながらも、読者に分かりやすく、しかも、原書に忠実で自然な文章をひねり出していくというプロセスは楽しいものでした。
 現在は技術系の翻訳をしていますが、出版翻訳には挑戦し続けていきたいと思っています。

千葉啓恵(第472回オーディション作品入賞者)

第472回 オーディション 作品入賞

訳書名 『あなたの仕事も人生も一瞬で変わる 評判の科学』
訳書出版社 株式会社中経出版


翻訳ストーリー

 翻訳の仕事に興味を持ったきっかけは、ひどい物理的蕁麻疹でした。ストレスが原因だと言われて仕事を辞めたものの、自分の収入がゼロになるのは嫌でした。どこに行っても長く続けられる仕事がしたい。そう考えたとき、翻訳はどうかと思いついたのです。もちろん、すぐに仕事などできるはずもないので翻訳の通信教育を2年ほど続けた後、少しずつ科学系の論文や記事を翻訳するようになりました。
 本の翻訳に関わるようになったのは、たまたま仕事先から下訳の打診を受けたからです。まだ早いとは思っていたものの、枚数が少なかったので挑戦し、それからは毎回悪戦苦闘しながらも、ときどき本の仕事をするようになりました。
 もっと本の仕事がしてみたい。それに、これまでの1週間くらいの短期の仕事と4~5週間の中期の仕事と組み合わせるには、3か月はかかる本の仕事の方が自分に合っている気がする。そう思い始めた頃に、トランネットの存在を知って入会を決めました。
 当初、私にはトランネットのオーディションはどれも敷居が高く、ずっと指をくわえて見ている状態でしたが、「評判の科学」の課題文は最後まで楽しく訳せたので応募してみました。それだけに、選ばれたときには嬉しさと同時にまさかという驚きと緊張も大きかったものです。
 そこからは調べものの嵐でした。論文も多く登場する本なので、詳しい人が読んでも違和感なく、一般の人にとっても読みやすい文章を目指したものの、力不足を痛感する日々。情報収集は好きでも、それをわかりやすく伝える技術はまだまだだと思い知らされました。
 一方、必死で調べて勉強したことが別の仕事で生きてきたりと世界が広がることにもなり、いろいろな仕事を手がける面白さを実感しています。これからも文章力や表現力を磨くことを心がけ、さまざまな仕事に取り組んで行きたいと思っています。

金井啓太(第466回オーディション作品入賞者)

第466回 オーディション 作品入賞

訳書名 『十の分かれ道』
訳書出版社 株式会社アルファポリス


翻訳ストーリー

 大学生のころに読んだ『翻訳夜話』がきっかけで、翻訳に興味をもちました。卒業後は小さな通信社に就職し、海外の政治ニュースを翻訳する日々。26歳で独立、産業翻訳の道に進みました。以来、専業で翻訳を続けてきましたが、訳す対象はいつも、専門的な内容の実務文書。論文、特許、契約書、ビジネス文書…やりがいを感じつつも、心のどこかにずっと、一般の人に読んでもらえるような面白い本を訳してみたいという思いがありました。
 それでもなかなか出版翻訳に挑戦しなかったのは、ひとえに自信がなかったからです。昔から自分の表現力にコンプレックスがありました。自分に一冊の本が訳せるだろうか? へたくそな訳を出して笑われたらどうしよう、そんな不安が胸の底にあったのだと今では自覚しています。
 その頃、「トランネット」と出会い、オーディション課題に目を通すようになりました。そして、人生に悩む人々を温かく励ます本書の原文を読んだときには自分なりに感じるものがあり、「これなら訳せるかもしれない」とようやく重い腰を上げることにしたのです。
 いざ課題文に取り組んでみると、最初はちっともまともな文章に訳せず、愕然としました。痛感したのは、字面だけを語学的に訳しても読み手の心に届く訳文にはならないということ。もっと深いところで著者の伝えたいことをとらえて、それを日本語で再構築するというプロセスを肌で感じることができたのは、何よりの収穫でした。
 出版翻訳に挑戦してから、今後の展望がグーッと広がり、心に新しい火が灯ったような気持ちです。不思議と、産業翻訳の楽しさも出版翻訳を経験することで改めて実感できました。いまや車の両輪のように、翻訳者としての私を支えてくれています。

藤崎香里(第470回オーディション作品入賞者)

第470回 オーディション 作品入賞

訳書名 『静かなるイノベーション 私が世界の社会起業家たちに学んだこと』
訳書出版社 英治出版株式会社


翻訳ストーリー

 小さなころから本を読んだり文章を書いたりすることが好きで、大学ノートを広げては自作の物語を書いていました。10代後半から5年間英語圏で生活したのをきっかけに、文章力と英語力とを同時に活かせる翻訳に興味をもつようになりました。
 実際に翻訳の勉強を始めたのは、それから何年も経ってからのことです。社会人生活にも慣れ、ライフワークバランスの充実を図りたいと考えたとき、真っ先に思い浮かんだのが翻訳学校に通うことでした。出版翻訳のコースを選択しましたが、特に出版翻訳は「勉強しても、仕事を手にできるのはごく一部の人だけ」と聞いていたので、当時はまさか将来自分にデビューの機会が訪れるとは思ってもいませんでした。
 私がTranNetのオーディションに応募したのは、翻訳学校の先生からの「教室の外で実力を試してみたら」というアドバイスがきっかけでした。「私にはまだ早いのでは」と思いつつ、TranNetのHPを見ていると、『静かなるイノベーション』の翻訳オーディションが目に飛び込んできました。そのとき「ぜひこれを訳したい!」と思いました。大学で国際政治経済を学び、社会人になってからは途上国支援の仕事を通じて世界の貧困、教育、平和といった問題に向き合ってきた私の経歴を活かせる一冊だと感じたのです。
 翻訳者に決定したという連絡をもらったときには、文字通り飛び上がって喜びました。
 そこから脱稿までは自分との闘いでした。平日は徹夜、週末は一歩も外に出ずに机に向かうという3カ月でした。すべての原稿を提出し、本が書店に並んでいるのを初めて見たときの感動は忘れないと思います。
 貴重な機会を下さった英治出版とTranNetの皆さん、そして3カ月間私を支えてくれた家族に心から感謝の気持ちを伝えたいと思います。今後も自分のキャリアを活かしながら、読んだ人の心の中に世界問題に対する課題意識が生まれる、そんな本の翻訳に携わることができればと思います。一方で、実績を積みながら徐々に仕事の幅を広げ、ゆくゆくはフィクションにも挑戦してみたいとも考えています。

はしもとすみれ(第468回オーディション作品入賞者)

第468回 オーディション 作品入賞

訳書名 『フラワー・フェアリーズの日記』
訳書出版社 株式会社大日本絵画


翻訳ストーリー

 翻訳学校の「基礎科」を終え、「本科」に進むときに選んだジャンルはノンフィクション。仕事で『TIME』などが身近にあったので、ビジネス書や自己啓発本が自分には合うかな、くらいの“なんとなく気分”でした。トランネットに入会してからも、応募するのはやっぱり“そのときの気分”に合う課題のみ。成績もまあまあだったり全然だめだったり。一年半ほど経って、翻訳は趣味で終わるのかな、と思いはじめたころ、「選り好みしないでどんな課題にもチャレンジしたほうがいい」と翻訳の先輩にアドバイスされ、とにかく連続五回オーディションに応募しようと決心しました。
 ひとつめはビジネス書でしたが、ふたつめはまったく訳したことのない絵本。一瞬躊躇しましたが、連続五回と決めたのだから、と果敢に(!)応募したところ、一次通過、二次通過、入賞、の嬉しいメールが。 わたしが妖精絵本? と思いながら翻訳仲間に報告すると、「ぴったりじゃない!」と言われてびっくり。あれあれ? わたしってクールなビジネス書が似合うのかと思っていたけど?
 本書は、懐かしのハイクラウンチョコおまけカードでファンの層も広い、可愛らしい妖精絵本シリーズ。日記形式になっているので、英国レディの著者シシリーになりきり、夢見る(女子力ならぬ)乙女力全開で訳しました。思いがけない入賞による“高揚した気分”をちょっぴりスパイスにして。
 その結果セリフ訳の楽しさに目覚め、妖精のキャラ名刺を配りながら営業して(訳書があるって大切ですね)、ジャンルの幅もフィクション方面に広がりました。原書探しやリーディングも大好きなので、いつかは持ち込んだ本の翻訳をしたいな、と“甘い気分”で考えています。
 わたしみたいに自分の適性がわかっていない皆様(いないかな?)、プロの目で見てもらえる“片っ端からオーディション応募作戦”、良かったら試してみてくださいね。

※ほかにも同シリーズの訳書があります。

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