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トランネット会員の翻訳ストーリー トランネット会員の翻訳ストーリー

井上舞(第582・583回オーディション作品入賞者)

第582回 オーディション 作品入賞

訳書名 『はじめての絵画の歴史 —「見る」「描く」「撮る」のひみつ—』
訳書出版社 株式会社青幻舎


第583回 オーディション 作品入賞

訳書名 『世界のかわいい本の街』
訳書出版社 株式会社エクスナレッジ


翻訳ストーリー

 翻訳を担当させていただいた2作品は、どちらもビジュアルが美しく、読み物としてだけでなく、目で見て楽しめる作品になっています。『はじめての絵画の歴史』は、ポップでカラフルなイラストが目を引くアートの入門書で、オーディション課題が発表になったとき、アートが大好きなわたしはすぐさまチャレンジを決めました。アート作品や用語について調べるのも、ふたりの著者の口調を訳し分けるのも、何もかもとにかく楽しく、課題というのを忘れるほどでした。訳者に選ばれたという連絡が入ったときは驚きましたが、「訳していて楽しい」という気持ちが伝わったのかもしれません。
 入門書といっても内容は専門的ですので、やさしい語り口を保ちつつ、その中で専門用語が浮かないようにすることを心がけました。訳していると、一文一文に意識が向きがちになりますが、作品全体の雰囲気やバランスを意識することも大切だと、この作品の翻訳を通して痛感しました。
『世界のかわいい本の街』は、「世界中の本の街のガイドブック」というだけあって、英語だけでなく、ドイツ語やノルウェー語、アイスランド語にアフリカーンス語も飛び出すなど、各国言語に関する調べ物が大変でした。調べものは好きなのですが、地名や人名など表記に気を使うものも多く、訳し終えたときほっとしたのをおぼえています。翻訳にあたり、お力添えをいただいた皆様、とくにフランス語のチェックに入っていただいた下訳者様に、心から感謝いたします。
 ガイドブックの翻訳で苦労するのは、自分が行ったこともない国や町の魅力を伝える訳文を考えなければならない点ではないでしょうか。せめて気分だけでもと、Google Earthで現地を「散策」したり、アイスランドの本の街を訳しているときはアイスランド音楽を聴いたりもしました。この作品を訳さなければ知ることもなかった言葉や場所と出会えたのが、今後の何よりの収穫だと思っています。

山本大樹(第151回Job Shop作品入賞者)

第151回 Job Shop 作品入賞

訳書名 『大英自然史博物館シリーズ2 サピエンス物語』
訳書出版社 株式会社エクスナレッジ


翻訳ストーリー

 翻訳小説を読むのが好きで、以前から翻訳というものに漠然とした興味はありました。
 49歳の時に、50歳になる前に何か新しいことを始めなければと思い、通信制の大学で、英文学を専攻してみることにしました。初めて行ったスクーリングで出会った人に入学の動機を尋ねられた時、まだしっかりとした目標があったわけではないのですが、その場を取り繕うような感じで、翻訳をしてみたいのだと答えたのを覚えています。
 それが、卒業する頃には少し自信がついて、本当にできるかどうかは分からないけど、翻訳者を目指してみるのもいいんじゃないかと思えるようになっていました。
 卒業後は通信の翻訳講座で学びながら、雑誌やインターネットで見つけたコンテストに応募していましたが、どうせなら仕事に結びつくオーディションなどのほうが為になるのではないかと考えて、トランネットのオーディションやJob Shopに応募するようになりました。
 今回、Job Shopで選んでいただいた時には、本当に自分が一冊の本を翻訳できるのだろうか、という不安はあったものの、せっかくのチャンスなので思い切って引き受けました。
 人類の進化に関する専門的な知識がないことも心配だったのですが、出版社からの要望は、大学生ぐらいの一般的な読者を対象に分かりやすく訳して欲しいということだったので、勉強しながら、専門的な知識を持たない自分にも理解しやすい文章にするのがいいのではないかと考えました。
 翻訳の仕事自体はまったく初めてだったので、コーディネーターの方に初歩的なことから教わり、出版社の方や監修の方にも様々なご指摘をいただき、なんとか最後まで訳出できました。手探りの状態から始めて2ヶ月あまり、文字通り翻訳と調べものに追われる日々でしたが、実際に一冊の本を出版するための翻訳作業は、これまで取り組んできたどんな学習より得るところが大きく、やり遂げた達成感もひとしおでした。

高崎拓哉(第79回Job Shop作品入賞者)

第79回 Job Shop 作品入賞

訳書名 『ルーキーダルビッシュ』
訳書出版社 株式会社イースト・プレス


翻訳ストーリー

大学院を修了し、「就職したくないなぁ……でも博士課程に進んでも先がないしなぁ……」と思いながらダラダラしていたときに思いついたのが、翻訳という仕事でした。学生時代に外国人の旅行記を読んで軽く翻訳するという作業を続けていて、これなら自分にもできるかもと思ったのです。

それから、当時住んでいた京都の部屋を引き払って、実家のある関東へ戻り、思い切って翻訳学校の1年間のコースに通いました。その後もなかなか仕事につながらない時期が続きましたが、学校の受講生仲間からトランネットのことを小耳にはさみ、オーディションやJob Shopに何度か挑戦した末、運よく合格できたのが『ルーキー・ダルビッシュ』の仕事です。

ちょうどそのくらいの時期から、いろいろなところで仕事をする機会が増え、いまはスポーツニュースの翻訳と本の翻訳を半々くらい、ちょこっと産業翻訳というようなバランスでなんとか仕事が続いています。Job Shopにはじめて受かったのが、翻訳の勉強を始めて4年強が過ぎた2012年。勉強を始めてから4年というと、かなり時間を要したほうだと思いますが、それでも当時の(というか今も)自分の実力を考えれば、選ばれたのはかなり運がよかったと思います。

これは産業翻訳をやっている友人の話ですが、トライアルは翻訳会社との一種のお見合いで、相性やタイミングもかなり影響するそうです。出版のオーディションにも似たようなことが言えるのではないかと思います。本との相性や、編集者との相性、あるいは出題される時期。自分もいまだにオーディションをたまに受け、落ちてばかりですが、必要以上にめげすぎることなく、さらなる精進への発奮材料ととらえています。チャンスは少ないでしょうが、今後は小説の翻訳なんかできたらいいな~と思っています。

※ほかにも多くの訳書がおありです。

川口富美子(第564回オーディション作品入賞者)

第564回 オーディション 作品入賞

訳書名 『世界で一番美しいペンギンの世界』
訳書出版社 株式会社エクスナレッジ


翻訳ストーリー

 時間に追われ、頭を悩ませ翻訳に奮闘していた記憶が薄れ始めた頃、完成した本が手元に届きました。自分が関わった「成果」が、書籍となって目の前にあることがとても嬉しく、何度も手にとって眺め、じわじわと涌いてくる喜びをかみしめました。この喜びを味わうために、私は翻訳を続けているのだと思います。
 ふとしたきっかけでトランネットを知り、洋書を読むのが好きだという理由だけで、特別な学習や経験もないまま翻訳の世界に飛び込み、片っ端からオーディションに応募しては、落選を繰り返してきました。予想外の低い評価に落ち込み、良い評価がいただければ喜び、しかし最後の1人には残れなかったと悔しがる、その繰り返しです。
 これまでの実績はわずか数冊。胸を張れるほどのレベルではありませんが、翻訳させていただいた作品は、どれも多くのことを学ばせてくれたた大切な宝物です。このような機会をくださったトランネット、そして、担当者の方々には感謝に気持ちでいっぱいです。出版界では常識であろうことさえも知らない私に、辛抱強く丁寧にご指導くださったうえ、ご迷惑ばかりおかけしたにも関わらず、最後にはとてもやさしいお言葉をかけてくださりました。トランネットのシステムと担当者の方々の厚いサポートがなければ、未経験・地方在住の私が、書籍の翻訳に携わることは絶対になかったと思います。

 翻訳を始めてから、一行一行(行間も)じっくりと文章を読むことの楽しさを知りました。濫読はしていても、1冊の本にこれほど深く向き合ったことはありませんでした。パズルのピースを探すように日本語と格闘し、ぴたっとピースがはまったときの感動も知り、1冊の本を翻訳することの達成感を味わうこともできました。
 自然な日本語で、オリジナルと同じ世界を描く、そんな翻訳を目指して、まだまだ勉強の日々です。でもオーディションは「年齢不問」! 何度落選しても、これからもずっと挑戦し続けていきたいと思っています。

日野栄仁(第565回オーディション作品入賞者)

第565回 オーディション 作品入賞

訳書名 『大人になってからの人間関係 信頼を深めるための3ステップ』
訳書出版社 株式会社文響社


翻訳ストーリー

 翻訳をするのは楽しかった。
 根拠のない自信と漠然たる憧れに駆られてオーディションに応募し始めたのが二年前の四月。『大人になってからの人間関係』の翻訳を担当することに決まったのが去年の四月だから、仕事をもらうまでに一年ほどかかっていることになる。オーディション落選の通知を受け取っては落胆し、やはり無理だろうか、などとよぎり始めていた頃だったから仕事をもらえたことに一入の喜びがあったのは確かだ。初仕事で少々舞い上がっていた気味もある。だが、翻訳を進めていくうちにやってきたのはもっと素朴な喜びだったように思う。原文を読み込み、それを日本語に置き換えていくことがこんなにも面白い。色々と思い悩むこともあっただけに、そういう心境に立ち返れたのが一番嬉しいような気がした。
 とはいえ、苦労もあった。まず分量に圧倒される。原稿用紙換算で五百枚と少々だが、これほどの量を訳出した経験はない。とりあえずスピード重視で進めてはみたものの、第一稿はその分粗い訳文になってしまったように思う。今思えば、もう少しこまめに見直しをしても良かったのではないか。また、読書内容のほとんどが文学関連で占められている私にとって自己啓発書は未知の世界だ。ふさわしい文体をつかむのに手間取り、キーワードを多用する著者だったのでその処理にも苦戦した。当然、山のように修正の指示が出る。正直これは堪えた、が、色々とアドバイスを受けられるのは頼もしい。自分の至らなさを見直すには良い機会でもあった。
 そもそも、専門的に翻訳の勉強をしたわけでもなく、ましてや仕事の経験などなかった私が、本を一冊翻訳させてもらえるというのは破格のことだ。おそらく、トランネットがなければこのような機会は持てなかったに違いないし、翻訳をやってみようだなどと考えてみることもなかったかもしれない。貴重な体験をさせて頂き非常に有難く思う。これを糧に今後も精進していきたい。様々な分野に挑戦できたら幸いである。

長田綾佳(第144回英語Job Shop入賞者)

第144回 Job Shop 作品入賞

訳書名 『SOU FUJIMOTO』
訳書出版社 株式会社エクスナレッジ


翻訳ストーリー

私が翻訳に興味を持ったきっかけは、高校2年生の夏休みに『ハリー・ポッター』の原書の一節を翻訳する宿題が出されたことでした。習いたての文法知識を使ってもとの英文を理解し、そこから自分の語彙を総動員して自然な日本語を作り出す作業がとても面白く、わくわくしたのを覚えています。人生でいちばん楽しい宿題でした。大学卒業後はメーカーに就職しましたが、翻訳への憧れが捨てられず転職し、翻訳学校に通いながらトランネットのオーディションに応募するようになりました。何度か挑戦したあと、Job Shopの合格通知メールを受け取ったときは、驚きと嬉しさでスマートフォンを握る手が震えま。

もともと建築に興味はありましたが、専門的な勉強をしたことも仕事で関わったこともなかったので、まずは関連書や用語集を買い込み熟読しました。藤本氏の講演を聞きに行き、都内の建物には実際に足を運びました。かなりの時間と労力がかかりましたが、おのずとますます建築が好きになり、藤本氏の大ファンになってしまいました。

実際に翻訳をしてみると自分の日本語表現力がいかに乏しいかを痛感しました。わかりやすくかつ味わいのある文章が作れず、うんうん唸りながら作業を進める毎日でした。自信満々で訳していた文章も、時間を置いて読み直すと誤訳や悪文が山ほど見つかり、愕然とすることが多々ありました。それでもなんとか訳了できたのは、担当のコーディネーターさんや営業担当の方のおかげです。訳案を提出すると毎回的確な指摘やアドバイスをくださり、出版社の編集者さんとのコミュニケーションで悩んだ際は親身になって相談に乗ってくださいました。あらためて心から感謝いたします。

立派な装丁の見本誌を手にしたときは、今までに感じたことのない達成感がありました。訳し進める中で自分の知識が増えていくのをありありと実感できるところが、翻訳という仕事の醍醐味なのかなと思いました。今後も訓練を重ねながら、Job Shopやオーディションに挑戦していきたいと考えています。

増井彩乃(第149回英語Job Shop入賞者)

第149回 Job Shop 作品入賞

訳書名 『建築家の隠された生活』
訳書出版社  株式会社エクスナレッジ


翻訳ストーリー

 もともと漫画が好きで、仕事で子ども向けの海外漫画の翻訳もしているので、珍しい漫画作品の公募をJob Shopで見つけ、すぐに応募しようと決めました。いつ大人向けの漫画を翻訳してみたいとずっと思っていたので、入賞の連絡を頂いたときは本当に嬉しかったです。
 ですが、いざ訳しはじめると非常に大変でした。この本は、現役建築家が自身の経験を元に描いた「建築あるある」漫画です。私は建築業界とは無縁の人間だったので、オチが理解できない、意味はわかるけれどどう面白いのかよくわからない……などという話がいくつもありました。そのため、建築関係の仕事をしている友人に質問したり、ネタを口頭で説明して「こういう話って建築士が読めば笑えるのかな?」ときいたりしました。翻訳学校で「翻訳者はよく知らない分野の翻訳をすることも多いから、質問できるようにいろんな職業の人とつながっておくことが大事」とよく聞いていましたが、人脈の大切さと有難さを改めて体感しました。また、漫画の翻訳で難しいのは、字数を原文と同じくらいにしなければならないところです。あまりにもわかりにくい場合は説明を足したいところですが、字数が増えてしまうし、説明的すぎて笑えなくなってしまいます。本来できるだけ原文に忠実にしたいのですが、笑えるようにするためにはかなり意訳しなければならない場合もあり、さじ加減に悩みました。
 そんなとき、トランネットさんが親身に相談にのってくださり、とても助かりました。自信のない箇所も多かったのですが、トランネットさんが英語ネイティブの方や建築に詳しい方からのチェックを入れてくださったので、安心して作業を進めることができました。対応もすべて迅速かつ丁寧で、本当に心強かったです。
 完成した本はとても素敵な装丁で、受け取ったときは感無量でした。すばらしい機会を頂き、ありがとうございました。

渡辺智(第561回・第571回オーディション作品入賞者)

第561回 オーディション 作品入賞

訳書名 『実は猫よりすごく賢い鳥の頭脳』
訳書出版社 株式会社エクスナレッジ


第571回 オーディション 作品入賞

訳書名 『猫の世界史』
訳書出版社 株式会社エクスナレッジ


翻訳ストーリー

 社会人になって20年になるが、先はまだまだ長い。刺激の少ない一地方で変わらぬ日々を送る中、自分の新たな可能性を探求してみたい、という思いでトランネットに入会した。早速いくつかオーディションやJob Shopに応募したが、一次選考を一度通過しただけ。今考えると、自分の読みをアピールしようとするばかりの、独りよがりな訳文だったように思う。それが“Birdbrain”で突然訳者に選ばれたのは、文学部出身で科学は本来専門外であるという意識と、日頃自分ではあまり使わない「です・ます」調が、ある種の謙虚さと客観性をもたらし、ほどよい表現に落ち着く助けになったのではないかと思っている。
 言語遊戯を期待してはじまった初めての翻訳は、そこにたどり着くまでの調べものに追われる日々だった。科学はやはり畑違いだったかも、という思いが一旦はよぎったが、あれこれ文献を調べて裏をとって……という作業は、まるで学生に戻ったようで、私は平日の深夜早朝、休日のすべてを捧げ、その世界にどっぷりと浸っていった。毎週送る訳文を、担当のコーディネーターさんが、鋭い指摘とアドバイスを添えて、間もなく返してくださる。自分の悪戦苦闘したものをこんなに正確かつ迅速に処理する人がいる、と身をもって知ることはとても刺激的で、自分もそうありたい、とやる気をかきたてられた。
 2冊目は得意分野に近づいたものの、調査が大部分なのは同じだった。引用が多く、邦訳の有無をまず調べ、あれば入手する必要がある。私が自由に動けない平日に図書館めぐりをしてくれた妻には感謝している。
 最終稿を提出した後は、これでしばらくゆっくり眠れる! と一時は解放感を得るものの、一冊の本を誰よりも(ひょっとすると著者よりも?)深く読む喜びは何にも代え難く、気がつけば次の出題を心待ちにしている。これからも幅広いジャンルに興味をもち、挑戦を続けたい。向上心を持たせてくださるトランネットは本当に有り難い存在だ。

百合田香織(第143回英語Job Shop入賞者)

第143回 Job Shop 作品入賞

訳書名 『名建築の歴史図鑑』
訳書出版社 株式会社エクスナレッジ


翻訳ストーリー

 どうすれば、次のステップに進めるんだろう。手詰まり感を抱いていたときにこのJob Shopが開催された。見た瞬間に「勝負どころ」と直感した。大学院はテーマど真ん中の建築史研究室だった。夫のイギリス駐在に同行した数年で、旅行、特に時刻表を睨みながらの鉄道旅行好きも手伝って、いわゆる名建築はかなり見て回っていた。間違いなく専門性が活きる。ただ、訳文そのものにはそこまでの自信が持てず、訳者候補になったとの連絡にも、きっと採用されると思い(念じ)ながらも次のJob Shopの準備をしていた。選定されたという報せに、嬉しさと非現実感の混じった不思議な気持ちになったのを覚えている。
 ありがたいことに、続いてほかの書籍の翻訳の機会もいただいた。すでに受けていた翻訳チェックも含めて3冊の翻訳作業が重なりながら進む。ほかの仕事もある。厳しいとはわかっていたが、いずれも興味深い作品で、またとないチャンスを諦める気にはなれなかった。建築やまちづくりのプロジェクトで経験したあれやこれやを思えば、自分さえがんばれば解決できる問題は恵まれている。むしろ俄然やる気は高まった。
 ただ、一冊を翻訳するのは初めてだったうえにスケジュールが輻輳し、コーディネーターの方々には確実に通常以上にお世話になった。いつも丁寧なフィードバックと、特にスケジュールに関する厚いご配慮とをいただき、3つのゴールに導いてもらったことにただただ感謝するばかりだ。
 全くの私事だが、先日、父を亡くした。建築に興味をもったのは父の影響で、特に絵本『カテドラル 最も美しい大聖堂のできあがるまで』をもらったのが大きなきっかけだった。病床の父に、初めて翻訳した本を見せ、喜ばせることができたことを何よりも感謝している。
 書籍のもつ、人を繋げる力や何かをはじめるきっかけになる可能性を改めて思い起こし、それをいつも伝えられる翻訳者になれるように、深く、幅広く研鑽を積みたい。

森ゆみ(第574回オーディション作品入賞者)

第574回 オーディション 作品入賞

訳書名 『パズルでめぐる世界の旅』
訳書出版社 株式会社エクスナレッジ


翻訳ストーリー

 わたしとトランネットとの出会いは、もう10年も前のことになります。それまでもわたしは、産業翻訳や英語講師など英語にかかわる仕事をしていました。そして、大好きな海外のミステリー小説などを訳している出版翻訳の世界が知りたくてトランネットの会員になりました。仕事の幅を広げたいという気持ちもありましたが、その時は残念ながらオーディションで結果を残すことができませんでした。家庭や仕事の忙しさにかまけているうちに、気がつけば9年の歳月が流れていました。ところが去年、ミステリー作品集の共訳をするチャンスに恵まれ、わたしの出版翻訳熱が再燃しました。またトランネットのオーディションへの挑戦をはじめ、去年は1年で10回のオーディションに応募しました。回数を重ねると何度か惜しいところまでいき、ますます意欲がわきました。そして幸運なことに、アート好きのわたしにぴったりな絵本の翻訳をさせていただくことができました。
 わたしにとってトランネットのいちばんの魅力は、自分がおもしろいと思った書籍を選んで応募できることです。しかもオーディションは年齢も性別も問わない実力の世界なのです! さて、わたしのふだんの愛読書は、アート、歴史や伝記、ミステリー、ガーデニング、料理、また産業翻訳でかかわっている映画関連のものなどです。今後の目標は、自分の好きな分野の知識や調査力を磨いて得意ジャンルに高めること、そして、読みやすい訳文を書けるようになることです。翻訳書作りに参加して痛感したことがひとつあります。それは、1冊の翻訳が、著者はもちろん、編集者、翻訳コーディネーター、デザイナー、校正者といったさまざまな人々と翻訳者の共同作業のたまものだということです。これからも、人々との出会いを大切にしながら心に響く本を読者にとどけていきたいと思います。

森本美樹(第568回オーディション作品入賞者)

第568回 オーディション 作品入賞

訳書名 『処刑の文化史』
訳書出版社 株式会社ブックマン社


翻訳ストーリー

 2017年夏、トランネットを通して出版翻訳の機会を頂いた私は2カ月間尋常ならぬ集中力を発揮した。
 子供のころ漠然と翻訳というものに憧れた。学校で習うのに先がけて英語を習いに行った覚えはないので中学1年生にはなっていたか、本屋の棚で見つけたペーパーバックをその独特の手触りや表紙の女の子の絵に惹かれて購入し、ノートも1冊用意して辞書を片手にいそいそと翻訳にとりかかった。もちろん初めの1歩の文法しか習っていない中学1年生に訳などできるわけもなく、早々に放り出してしまったこのときの本とノートはどこにいっただろう。
 その後は英語や英文学を専門に勉強することもなかったが、翻訳に対する子供のころの薄ぼんやりとした憧れは常に持ち続けていたように思う。数年前からトランネットのオーディションに挑戦し続け、今回合格となり未知の世界に飛び込んだ。
 1章ずつ訳文を作り、経験豊かで優秀なコーディネーターのアドバイスを受けながら文を練り直して納品する作業を繰り返した。最初のフィードバックを頂くまでは不安でたまらなかった。このレベルの訳で本当に出版なんてできるのだろうか。丁寧なフィードバックを頂いて心強くなり、そして心に火が点いた。プロの仕事をするというはっきりとした意識が芽生え、全力疾走に飛び出した。ペース配分も何もない。とにかく食らい付き集中した。時計の針が指す時間が昼なのか夜なのか、昨日なのか今日なのかもわからなくなるほど没頭した。文字通り寝食を忘れ、今できる最高の訳文を作ることだけを考えた2カ月だった。
 不休で翻訳にとりかかるあいだ、1度も苦しいとも辛いとも思わなかったのが不思議だ。全力疾走しゴールが見えてきたときの気持ちを覚えている。それは達成感ではなく寂しさ。単純に翻訳作業が終わってしまうのが寂しかった。子供のころから面白い本を読んでいるときに残りページの厚みを確認しながら読む癖がある。ああ、もうこれだけで終わっちゃうというあの感覚。翻訳も全く同じだった。
 楽しかった。もっともっと続けたかった。翻訳に関し何の基本的な教育も受けておらず、ただ本好きの少女が大人になっただけの私が。翻訳者としてデビューすることができた! 機会を与えてくださったトランネットに感謝しています。

竪山洋子(第146回ロシア語Job Shop入賞者)

第146回 Job Shop 作品入賞

訳書名 『睡蓮の池で見つけた幻想イラストレーション 妖精たちが見た  ふしぎな人間世界』
訳書出版社 株式会社マール社


翻訳ストーリー

 Job Shopでロシア語原書が公募された時、「やっと時が来た! 数十年来の夢を叶えるチャンス」と私の中では色めきたつものがありました。今回翻訳させて頂いた作品を手にした人の大多数の感想は「こんなイラスト見たことがない。素晴らしい!」と、イラストが主役ですが、妖精目線の人間世界という面白い発想の文章の本です。産業翻訳が専らの私は、「雰囲気のある読み易い翻訳」という注文に四苦八苦を続け、随分と編集者の手を煩わせてしまいましたが、訳し進めるうちに、既成概念にがんじがらめの私の頭を柔らかくしてくれる素敵なこの本の翻訳を心から楽しませて頂きました。感謝に堪えません。
 私の露語への入り口はドストエフスキーの「罪と罰」でした。文学作品を翻訳するのが夢でしたが、周囲から「文学は大学の先生達の仕事」と言われ、実務翻訳士の資格を取り、契約書や技術仕様書の翻訳をしていました。様々な露語関連資格に挑戦してきたのは、第二外国語で学習したからで、力の証明が欲しかったからです。ロシア留学後は、通訳と翻訳に従事し続けています。通訳と翻訳は全く違うスキルですが、露語界では普通の事で、何でもしないと生活できないのが現実です。今では語学の三大職業の残りの一つ、露語講師もしています。趣味は童話を訳すことです。童話の朗読CDを聞いたり、アニメを観たりは露語のブラッシュアップを兼ねてですが、和訳する際に訳語選びや表現に凝るのは純粋な楽しみです。日本の児童文学を仲間達と露訳するのはライフワークになっています。
 露語以外の趣味がないオタクですが、露語の美しい響きや豊かな発想、またロシアという国を様々な形で伝えていくことは私の人生の意味となっています。末筆ですが、私の長年の夢を実現してくださり、拙い翻訳に読者目線を吹き込み、励まし続けてくださったトランネット様とコーディネーターの方に心から御礼申しあげます。

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